SDGsのアジア太平洋地域での進捗状況

先日、仕事の関係でESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)の統計部門長の方と国際会議で一緒にSDGsの関係でお仕事する機会がありました。

その際に、統計部門長の方から発表があった「アジア太平洋地域でのSDGs進捗状況」という報告が目を引きましたので、その概要を記したいと思います。報告書の和訳版は以下のリンクをご参照ください。

アジア太平洋SDG進捗報告書2021(日本語版):出典ESCAP(IGES訳)

この報告書は2019年以降毎年ESCAPから発行されており、日本語訳も地球環境戦略研究機関(IGES)が和訳したもののリンクがついています。ここでは概要を述べるにとどめたいと思いますが、興味深い結果がいくつか述べられています。

アジア太平洋地域では、今後加速された行動なしでは、2030年までにSDGsを10%程度しか達成できないかもしれない。

図1.2021年アジア太平洋域におけるSDGs達成状況の概観(字が潰れて見ずらいので、ここから英語の最新状況をオンラインで確認できます。ナショナルSDGsトラッカー)(出典:ESCAP・IGES「アジア太平洋SDG進捗報告2021」より)

これが一番大きなメッセージになるのですが、上の図1を見ていただければわかるように、ゴール3(健康と福祉)や9(産業と技術革新)などのゴールは大きな進捗がみられ、ゴール1(貧困撲滅)、2(飢餓ゼロ)、4(教育)、10(不平等解消)、17(パートナーシップ)などもそこそこ進捗しているのですが、全てのゴールで2020年までに達成しているべき度合いに届いていません。

また、ゴール13(気候変動)と14(海の豊かさ)は後退しているものと評価されています。気候変動の達成がほとんど出来ていないという状況は大きな課題ではないでしょうか?

また、コロナのパンデミックによって多くのゴールが影響を受けていますが、逆にこうしたパンデミックを乗り越えようとする野心がSDGsの達成を後押しする力になるとも言われています。

一方で、17のゴールと169のターゲットの進捗度合いを測定するための231の指標(インディケータ)のデータが不足していることが大きな課題として挙げられています。指標のためのデータが不足しているので、ゴールとターゲットが達成できているのかどうかわからないという状況なのです。

図2.アジア太平洋域におけるSDGsターゲットの予想される進捗(字が潰れて見ずらいので、ここから英語の最新状況をオンラインで確認できます。ナショナルSDGsトラッカー)(出典:ESCAP・IGES「アジア太平洋SDG進捗報告2021」より)

上の図では169のターゲットにおいて、進捗が良好(緑)、不十分(黄)、後退(赤)、測定不能(灰)を示しています。進捗が良好なのではわずか169のターゲットの内、9のみということになります。

この図で注目したいのが、ターゲットの進捗が不十分(黄)が多いのもあるのですが、測定不能(灰)も約40%あるということです。ターゲットの達成度を測るためのデータが不足しているのです。

図3.アジア太平洋域におけるSDGs指標の測定データの利用可能性(ここから英語の最新状況をオンラインで確認できます。ナショナルSDGsトラッカー)(出典:ESCAP・IGES「アジア太平洋SDG進捗報告2021」より)

上の図からわかるように、ゴール5(ジェンダー)、11(都市)、12(消費・生産)、13(気候変動)、14(海の豊かさ)、16(平和と公正)、17(パートナーシップ)などでデータ不足あるいはなしの度合いが大きい事がわかります。ざっと言うとジェンダーと環境分野での測定データが少ない事がわかります。

アジア太平洋地域の国々のデータは、国連経済社会局(DESA)統計局が管理するグローバルSDGs指標データベースから抽出したものです。

このデータは各国の統計局や国連機関から必要な情報が提供されていくのですが、必ずしても各国が一様にデータを提供できる能力があるとも限りません

途上国はデータ取得すらままならない事もあると思います。指標によってはデータ取得に労力やお金がかかるため難しいことや、そもそも指標に使うためのデータをどうやって取ってよいかわからない、という状況もあるのです。

特に、環境の状況を測定するデータは範囲が広いため、広大な国で途上国である国ほど測定が難しくなります。

ちなみに、日本は総務省の統計局がNSO(National Statistic Office)として指標のとりまとめと監視を行っています。

Japan SDGs Action Platform

このプラットフォームでは、SDGsグローバル指標をクリックすると、各指標のデータが表示されます。これを見ると、表示できるデータが意外に少ない事がわかります。

測定するための指標のデータは国際的にメタデータとして手法が決まっています。それに基づいて各国が自身でデータを取得して、手法に基づいて計算を行い指標を算出するのです。

国連のSDGs指標の算出方法(メタデータ)(英語)

これを169の指標全てに行うのは相当大変な作業です。元となるデータは統計情報が主となりますが、それだけでは足りずに新たに地理情報データや地球観測データ、国土数値情報や様々な環境データなどが必要になっているのです。

こうしたデータをどう集めていくのか?そして、それをどのように正しく補正して、他の統計情報などと一緒にメタデータに基づいて算出出来るのかが大きな作業になっています。

こうした課題に、今私も仕事の一環として取り組んでいます。

以下、ESCAP統計部長とアジアの4か国の統計部局の関係者と開催したシンポジウムのリンクは以下の通りです。

アジアオセアニアGEO(AOGEO)シンポジウム(中でSDGs特別セッションとして開催しています)

 

ちなみに世界的な進捗報告の概要は、以下の国連大学のサイトでご覧になれます。

SDGs報告2020(国連大学)

また、SDGsの進捗に関する報告書が以下から出ています。この報告書は持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN:Sustainable Development Solutions Network)とベルステルマン財団(Bertrelsmann Stiftung)によって作成されたレポートです。

Sustainable Development Gaols Report 2020

この報告書によれば、日本は世界での進捗順位で17位に入っています。特にゴール5、13、14、15、17の指標において進捗が悪いと評価されています。

さらに、他の地域はどの程度の進捗なのでしょうか?

ラテンアメリカ・カリブ地域: 報告できる指標は約31%(2019年)

アフリカ:データ不足をSDGs実施の主な課題と回答した国の割合は82%(2020年)

米国:244指標のうち報告できる指標は41%(2021年)

欧州:EU独自の指標セットを作成。国連が定めるグローバル指標と整合するのは、67指標。

こう見ると全体的に進捗が悪いですね。

2030年までにSDGsはどこまで達成できるのか?

現状ではかなり難しい様相を呈していますが、これから我々がどこまで加速していけるかは、我々の意識とリテラシーの向上と行動にかかっているのですね。

出来るところから進めていく、という基本を見直し、無理のない範囲でやっていく事を忠実に実行していくのが大切だと改めて思いました。

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