気候変動データ(平年値)のアップデート

最近は気候変動の話題が真っ盛りですが、気候が変動していることはどう測っているのでしょうか?

専門家でなくても、何かを基準としてそこから気温が上がっているのか下がっているのかを測る事が必要なこと位はわかるかと思います。

良く「何年前と比較して」と言う形で過去の気温や降水量などと比較されますよね。その際に、「平年値」と言う言葉を聞いた事があるかと思います。

平年値とは「その時々の気象(気温、降水量、日照時間等)や天候(冷夏、暖冬、少雨、多雨等)を評価する基準として利用されるとともに、その地点の気候を表す値として用いられています。」(気象庁ホームページより)という定義になっています。

また、平年値は30年間の気温、降水量、日照時間、積雪の深さ、風向、風速、湿度、気圧などの平均値としており、これまで1981~2010年の観測値による平年値を使用していました。

そして、ちょうど今年は平年値を更新する年にあたり、1991~2020年の観測値による新しい平年値が作成されました。この平年値は5月19日から使用されます。天気予報で耳にする季節予報や天候の解説等で用いている各種平年値が新しくなるのです。

こうした定義は国連の世界気象機関(WMO)で定められており、参加各国に1991年~2020年を新たな平年値として採用するように呼び掛けています。欧米でも同じように新しい平年値が採用されています。

Updated 30-year reference period reflects changing climate

温暖化が急速に進む状況において、世界各国が平年値を最新にアップデートすることが必要になってきます。また、平年値をアップデートするだけではなく、過去の平年値との比較も行っていく必要があります。

パリ協定では、「産業革命以前(1850年~1900年)に比べて世界の平均気温を2度以上に上げない、可能な限り1.5度以内に抑える」、という至上命題がありますので、全世界における基準に則った観測データの維持管理と平年値のアップデートが大変重要になるのです。

最近では、観測技術やIT技術の発展によって、観測データの即時処理や大量解析を可能としています。

こうした大量の観測データの取り扱いが容易になってくれば、長期のデータのトレンドを比較が可能になっていきます。例えば、下の図はアメリカの1901年から2020年までの気温の平年値の変化具合を表しています。明らかに平均気温の上昇となっていることがわかります。

米国の平年値の更新について(米国海洋大気庁NOAA)

一方で、日本の平均気温は長期的にみて上昇しており、1980 年代後半から急速に上昇しています。その背景には、温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化による長期的な昇温傾向と数十年周期の自然変動の影響があると考えられています。地点によっては都市化も影響していると考えられているようです。

降水量は多くの地点で10%程度多くなるようです。降雪量は冬の気温上昇の影響などによって、多くの地点で少なくなるようです。また、さくらの開花について、ほとんどの地点で1~2日程度早くなるようです。

日本の平年値の更新について(気象庁)

ますます、地球の監視が大切になっている中で、日本も自国のモニタリングだけではなく、世界の気候監視に目を向けつつ、自国への影響をしっかりと把握していくことが必要ですね。

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凄い量の黄砂が舞い上がる!

本日、世界気象機関(WMO)からのニュースですが、この10年で過去最悪レベルの黄砂がモンゴルと中国北部などで舞い上がっているとのニュースが出ています。

北京や大都市ではダストが空を覆い、視程が500m以下とのことです。モンゴルでは犠牲者も出ているとのこと。

これはモンゴルにあった猛烈な980hpaのサイクロンがゴビ砂漠の砂を巻き上げたのが原因のようです。巻き上げられた黄砂は強い北風に乗ってモンゴルに渡り、その後中国北部にストームとなって伝搬していきました。このストームはここ10年で最強のものだったようです。

この巻き上げられた砂はモンゴルと中国ではPM10というもので、10マイクロメートル以下の粒子という意味です。我々が良く聞くPM2.5は2.5マイクロメートル以下の粒子ですから、それよりも荒い砂の粒になります。巻き上げられたばかりの砂はまだ荒い状態なのですね。日本に上空で運ばれるに従って、細かくなってPM2.5になるのです。

PM10のままの粒子は中国とモンゴルを覆っているのですが、粗い粒子のままだとその被害は細かい粒子よりも大きくなります。

このようなダスト粒子は少ない量でも健康に被害を及ぼします。世界保健機関(WHO)によると、健康に影響を及ぼさない最低限のダスト粒子の量は、24時間平均で立方あたり50マイクログラム以下とのことです。

ところが今回の黄砂は北京やモンゴルなどの都市で、なんと立方あたり5000マイクログラム以上で、ピーク時には9000マイクログラムを超えていたとのことです。

このようなWHOの健康の許容値を超えるような濃度の黄砂が大都市を覆うと、そこに住む人の健康にも害を及ぼすでしょう。

この黄砂を巻き上げた強いサイクロンが問題であり、このサイクロンの強さの原因は気候変動によるものだと考えられる訳です。気候変動による影響が人々の健康に直接影響を及ぼす事例になります。

そして、この黄砂は明日には薄まるにしても日本にも一部届くのは偏西風により明白です。ニュースによると部分的であり、中国やモンゴルのような甚大な被害にはならないようですが。

ここ数年にかけて黄砂の日本への飛来も大きな問題になっているような気がします。年毎にどの程度黄砂が増えているのか調べてみるのも良いかもしれません。

黄砂に限らず、昨年は森林火災も各地で大規模なものが数多く発生しました。林野火災においても火災により大量の煙霧や有毒物質が発生し、それが大気の流れに乗って世界中に拡散していきます。

こうした気候変動による影響も複雑であり、気候変動のメカニズムを知ることが大切であり難しい問題です。

気候変動の解明は科学者でも大変ですが、それを市民に正しい情報として伝えるリテラシー向上も大変重要です。気候変動はもはや科学者に留まらず、市民レベルで対処していく必要があるからです。

気候変動はその影響を「軽減」する方策と、「適応」する方策に分類されます。軽減は温室効果ガスを削減するのがメジャーであり、パリ協定によって既に多くの国が削減目標を提示しています。

難しいのは適応で、気候変動によって気温上昇はこれからも続くと考えられるので、我々は自分の生活をどうしようもない予測に逆らわずに「適応」していく必要もあるのです。

これは適応に対しては、国が適応計画を作ります。その適応計画に従って、地域の事情を考慮した自治体レベルでも適応の対策を行う必要があります。既にいくつかの自治体では適応の対策を始めているところもあるようです。

日本の気候変動適応計画

例えば、北海道と沖縄では適応策はかなり異なると思います。北海道のじゃがいも農家は気候変動によってどうすればいいのか?という問題と、沖縄のサトウキビ農家の対策は違うからです。

是非、あなたの住んでいる市町村に気候変動の適応の対策についてインターネットなどで調べてみて下さい。そこから、あなた個人が何か出来るか考えてみるのもThink Global & Act Global(Localも!)の構想に合っていると思います。

黄砂のWMO記事原文リンク

 

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2050年の天気予報

猛暑到来ですね。日本列島は北海道を除いて連日猛暑日(最高気温が35度以上)の所が多くなりますので、皆さん熱中症には十分ご注意ください。

ところで、世界気象機関(WMO)が5年ほど前に面白い企画を実施しました。

WMOが「2050年の天気予報」を行う企画を行い、WMOの主要メンバー国に対して働きかけて、各国の主要ニュースメディアと人気の天気予報のキャスターと共同で、「実際に2050年になったつもりで天気予報を行う」動画を作成したのです。

日本はNHKが作成を行いました。以下、動画を貼り付けておきます。

これを見ると、2050年の9月23日までに、

・真夏日(最高気温が30度以上)が50日以上

・熱帯夜(最低気温が25度以上)が60日以上

・熱中症による死亡者が6500人以上!

・京都の紅葉の見ごろはクリスマス頃!

・海面水温の上昇で沖縄のサンゴの白化が深刻

・秋にはスーパー台風(中心気圧895hpa!最大風速70m/s!)が襲う!

という、とんでもない状況になっている事が予報されています。

しかし、これはIPCCの科学報告書に基づいた予想であり、SFではありません。

今日の様な猛暑日を体験すると、これから30年後にはそうなる可能性もあるかもしれないという気にもなってきます。

動画の後半では、温室効果ガスの排出がこのままの状況を維持する事の危険性を訴えています。

各国が気候変動に対するアクションを起こすように、前国連事務総長のバン・キムンのメッセージも最後に添えられています。

その他、アメリカ、ヨーロッパ各国、アフリカ、等、世界各国のキャスターによる動画があります。

まとめてどこかに置いてあるのかと思ったのですが、なさそうですので、YoutubeでWeather Forecast 2050で検索してみてください。

世界のキャスターやテレビ局の違いがあって、中々面白いです。

実は、この企画はWMOの広報担当が行ったのですが、私の知り合いでもあります。

その時に、日本のNHKとキャスターは素晴らしかった!と言っていました。

日本のきめ細かい、真面目で、高品質な文化を彼も感じたのでしょう。

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アジアモンスーンの変動による洪水被害の拡大

九州では梅雨の梅雨前線により線状降水帯が発生し、集中豪雨による洪水被害が続いています。

近年は「観測史上初」とか、「過去50年以内に例を見ない」などという表現が多く出てくる程の異常な降水量であり、地元の方々も経験したことのない大雨がここ数年続いているようです。

通常、降水量は目的別に1時間雨量、3時間雨量、12時間雨量、24時間雨量、振り始めからの積算雨量、という形で目的別に使い分けられます。

例えば、都市のゲリラ豪雨では30分から1時間程度の集中豪雨ですので1時間雨量が使われます。

普通夏の午後によくある雷雨で大体1時間で20~50mm以内ですが、これでいわゆるどしゃ降りの雨というものになります。1時間50mmを超えると、低地での浸水やがけ崩れの危険が高まります。

今回の九州の豪雨の場合、梅雨前線により形成される積乱雲が、同じ場所で次から次へと生成しては消えていくパターンとなっており、1時間でも50mmを超える雨量ですが、それが3時間以上で観測史上1位の降水量となっている場所が多いのです。

1時間でも50mmを超えるのに、それが何時間も続くほどの降水量になると土砂災害の危険や、河川の増水や氾濫の危険度も増してきます。実際に、九州のみならず全国で84河川で氾濫が確認できているとのことです。

なぜ、近年この時期に大雨が降る様になったのでしょうか?このメカニズムは「アジアモンスーン」というアジアにおける水と大気の循環系によって解明が進められています。

アジアモンスーンとは、インド洋からインドを抜けてチベット高原、中国を抜けて東端となる日本までを含む季節風変化のメカニズムです。

梅雨の季節になると、インド洋などの南の海と大陸の温度差が大きくなり、海上からの湿った空気が大量に大陸に流れ込みます。そして、その湿った空気が中国を抜けてはるか東の日本まで運ばれてくるのです。

アジアモンスーンのメカニズム図

©Zhanqing Li, et al

詳しい説明は専門書がたくさんありますから避けますが、この季節風による湿った空気が例年よりも大量に入ってきて、なおかつ北からの季節風と衝突して積乱雲を形成します。近年このアジアモンスーンの変化が大きくなっているのがわかっています。

今回、世界気象機関(WMO)によると、日本だけではなく、中国やインドでも洪水被害が起きている事が報告されています。インドでは北部にかけて最高レベルの洪水警戒が出ています。中国では6月から揚子江流域で洪水被害が多発しており、数百万人に影響が出ています。

気候モデルによると大気中のCO2濃度が増えると、地球上において強い雨の頻度が増え、弱い雨の頻度が減る、という予測を立てています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、特にこのアジアモンスーンの地域では今後の降水量変化予測として増加傾向にあるとしています。

実は、このアジアモンスーンの地域にはおよそ世界の人口の約60%が住んでいるとのこと。今後洪水被害が増加するとなると世界的にも深刻な状況になっていくかもしれません。

国内においては、「気候危機」の状況がようやく浸透し始め、自治体レベルでの対策が開始されています。こうした洪水被害に対する治水対策などはもはや「気候変動対策」として地域レベルでの動きになっています。

自然科学の分野でのこうした気候危機のメカニズムが解明されていますが、その科学の解明の成果が我々一般の生活にどう生かされるかが今問われていると思います。

IPCCの活動はまさにそうしたものでありますが、まだまだ一般への認知度や分かりやすさという観点で難が多いと思います。科学や研究の成果を分かりやすく誤解のない様に誰にでも説明できる機能が重要であり必要だと思っています。

参考文献

Aerosol and monsoon climate interactions over Asia

気象庁ホームページ

 

 

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